無から立ちのぼる存在

非線形科学 (集英社新書 408G)

非線形科学 (集英社新書 408G)

一昨日から読み始めて、さきほど読み終わった。内容的にはとてもおもしろい。だが、文章が固いというか、いかにも学者さんの文体で慣れてない人はまったくおもしろくないだろう。朝永振一郎やリチャード・P・ファインマン、G.M.ワインバーグ… 分野はまったく違うけれど、みな非常に高度な内容を普通の言葉で語ることのできる人たちで、彼らの文章は優しさと楽しさにあふれていた。この本にはそういった優しさや楽しさはない。ただ「こんなにおもしろいことがあるんだよ」と理解してくれることを読者に押しつける文体だ。読者に努力を求めてしまっている。著者の性格がそうさせるのではないことは、読んでいるとわかる。一生懸命、読者に理解してもらおうとなるべく簡素な例を持ち出し、必要最小限の説明に抑えるために言葉を選んでいることはよくわかる。だけれど、おそらく著者は学問の外の世界を知らない。この本を読める人は最初から非線形科学に興味があって、予備知識のある人だけだ。ただの好奇心だけではこの本を読み終わることはできない。専門書や科学一般書ならいざ知らず、新書でこの文章は厳しいんじゃないかと思う。内容が楽しいだけあって、そこだけが残念だった。


話を非線形科学に戻してみたい。何年も前から興味ある分野だった。今まで小さな知識がちらかっていただけのオレの脳みその中を、この本はうまく整理してくれた。そしてオレの後悔をさらにふくらませてくれた。

自己組織化とは何か―生物の形やリズムが生まれる原理を探る (ブルーバックス)

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自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則

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創発―蟻・脳・都市・ソフトウェアの自己組織化ネットワーク

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知の創発―ロボットは知恵を獲得できるか

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これらの本、引っ越しのときに捨ててしまった本だ。そして「非線形科学 (集英社新書 408G)」の内容に通ずる側面を持った本たちだ。ああ、また読みたい。今度はもっと深く理解できるだろうに。だがもうこの本たちは手元にない。


自己組織化、フラクタル、カオス、複雑系… あまりにおもしろいテーマだ。


ちょっと話は変わる。禅の話だったと思う。だだっぴろい何もない野原にいたとする。そしてそこに落ちている枯れ枝を使って庵を作ってみる。さっきまで野原には何もなかった。そして何も持ち込んでいない。なら、この庵はどこからわき出てきたんだろう、いつの時点から存在したんだろうという話だ。確か色即是空 空即是色を説明するときに出てきた話だったと思う。


何もないところから「意味」や「存在」が生まれてくるのは確かだ。意味論や認識論で片づけるのはたやすいが、量子力学複雑系をからませて考えると、それは逃げのようにも思えてくる。本当に何もないところから「存在」が立ち現れてくる。


最初にけなしてしまったようだけれど、オレはこの本に感謝してる。この本のおかげでオレの好奇心がムラムラと立ちのぼったのは確かだから。