言論の自由、プライバシー

さて、続編。

asahi.com:鑑定医、漏洩認める 「頼まれ見せた」 調書引用 - 社会

奈良県で家族3人が焼死した放火殺人事件をめぐり、中等少年院送致になった長男(17)らの供述調書を引用した本が出版され、精神鑑定を担当した京都市の医師(49)が秘密漏示容疑で奈良地検の家宅捜索を受けた問題で、医師が地検の任意の事情聴取に対し、「(著者から)頼まれたから調書を見せた」と漏洩(ろうえい)を認める供述を始めたことが22日、わかった。医師は「そのまま本に引用するとは思っていなかった」と話しているという。地検は漏洩にいたった経緯などについてさらに調べる。

どうもこの事件、個人的に釈然としなかったので、いろいろと読みあさってみました。


草薙厚子氏を擁護する側は、その理由として

  • この件に関しては言論の自由を優先すべき
  • 少年事件のこれからを考えれば情報を公開すべき

の二点に集約されるようだ。

批判側からは

  • 守秘義務をないがしろにしている
  • 情報源の秘匿ができていない

の二点くらいだろうか。


個人的には医師から調書をリークしてもらったことが丸わかりな本を出しておいて、いまさら「情報源の秘匿」を頑なに主張する草薙さんは滑稽だし、調書を漏洩させた医師の同意も取り付けてなかったことから「売れる本を出したかっただけなんだな」としか理解できない。


オレが草薙さんを支持できない一番の理由は「犯人の少年とその父親のことをまるで考えてない」からだ。


少年も父親も、これからの人生がまだある。すでに日本中に事件を報道されて、すべての生活が壊れてしまっているだろう。これからまた、住むところを探し、仕事を探し、友人を作り、やり直していかないといけない。そんな人たちに追い打ちをかけるように、すべてを赤裸々に報道する必要はないだろう。オレはこの一点で、これは報道の暴力だと思う。すでに彼らは充分な罰を受けているのだ。


さらに言えば彼らの更生の邪魔をしている。この本は少年事件の防止に役立つ、なんて言ってる草薙擁護派のヤツらがバカに見える。目の前に現実に存在する少年と父親は無視しておいて、どこでどう起きるかわからない可能性だけの少年事件を防ごうというのがちゃんちゃらおかしい。


調書を大量に引用する必要などなかったろう。そうしなければ生々しい事件の真実が表現できなかった、と草薙氏は主張しているが、それは単に物書きとしての技量が足りないだけだ。


人は自分を正しいと思い込んでいるほど、残酷になる。


そんな残酷さが透けて見えるこの事件のニュースを見るたび、ゲッソリする。


イラク人質事件のときも同じことを思ったな。