健全な肉体に狂気は宿る


半年くらい前に何気に買ってみた本なのですが、ずっと放置されておりました。先週、なぜか気になって読み始めたら、とてもおもしろかった。内田樹氏と春日武彦氏の対談をまとめたものなのですが、ここに出てくるお二方が言葉にならないことを懸命に言葉にしているのがよくわかる。

内田 ぼくは「自己」という概念もそろそろ改鋳した方がいいと思っているんです。だって、「自己」って単体で存在するわけではなくて、人間たちを結びつける社会的なネットワークの中でどういう役割を演じるかということで事後的に決まってくるものなんですから。
  (中略)
そのへんのことが彼女たちにはわかってない。「キャリアって自分で形成するものなんじゃないんですか?」ってきょとんとしている。「君の能力や資質のうち、他人が必要とするものを提供し続けてゆくことが『キャリアパス』なんで、どれがキャリアになるかを君は自己決定することはできないんだよ」って言ってもよくわからないみたいですね。
「自分はこれがしたい」ということは一生懸命言うんだけれど、「自分は他人のために何ができるのか?」という問い方は思いつかない。でも、「誰が自分の支援を必要としているか?」という問い方を自分に向ける習慣のない人間は社会的にはほんとうは何の役にも立たないんです。

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 (角川Oneテーマ21) p52

まったく同感。だけどオレがこのことに気づいたのはけっこう最近だ。もっと若いときに気づいておきたかったな。


生きていくために気づいておいた方がいい小さな事柄を一生懸命掘り起こしています。対談形式なので読みやすくてオススメです。


で、この対談の内田樹っていう名前、見覚えあるなぁ...と思ってたらmifikoさんのブログで何度となく見た名前だった。あぁ、この人のことなのかーと思いながら本棚に目をやるとなぜかそこにも「内田樹」の文字が。「寝ながら学べる構造主義 ((文春新書))」という内田樹氏の著書でした。なんだ、オレ二冊も内田樹氏の本持ってたんだ。


半年も放置してたのに先週になって急に読み出したのは、たぶんオレに読む準備ができたからなんだと思う。今、読むべきタイミングだったから、出会い直したんだろう。

他にも気に入った箇所がいっぱいあるので、いくつかを引用。

春日 だから、反復というのは酩酊につながるんですよ。わたしはよく患者さんに言うんですが、「あんた、負け癖つけないようにしなさいよ」って。「案の定、また負けちゃった」「また不幸になったよ」となると、そっちの方が安心しちゃうわけ。

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 (角川Oneテーマ21) p79

内田 だから、「愛してる」ってどんどん言った方がいいですよ、と申し上げているわけで。あれは祝福の言葉ですからね、絶対言った方がいいんですよ。「俺はこの人をほんとうに愛しているんだろうか」なんて内省しちゃう人がいるけど、そんなこといくら考えたって、結論は「あまり愛しているようには思えない」になるに決まってるわけで、考えちゃだめなんですよ。とりあえず「愛してる」と言ってしまえば、その祝福のことばの効果の方が何時間の内省よりもずっと「善きもの」をもたらすんですから。
 人間というのは、他人から聞いた話というのはあまり軽々には信用しないくせに、自分がいったん口にしたことばというのは、どれほど不合理でも信用するんですよ。

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 (角川Oneテーマ21) p112

読んでいて楽しい本だった。漠然と思っていたことを言葉にしてくれていたり、まったく気づいていなかったことに気づかせてくれたり、当然のように思っていたことを改めて違う角度から説明してくれたり。


内田樹氏の著作、他にも読んでみようかな。