殺意の芽生えた日
昨日の誕生日パーティーで、マスターが手品を披露してくれた。
傾けて張ってあるゴム紐に通した五円玉が上へ上へと登っていく手品だった。
いくら考えても、何度見せてもらってもタネがわからない。すでにタネを知っているSちゃんが横で小憎たらしい笑みを浮かべている。「んふふ」などと笑っている。勝者の余裕である。きぃっ!
ゴムひもをねじっているのか?いや、ねじっていない。
小刻みにゆらしているのか?いや、ゆらしていない。
伸ばしたり縮めたりしているのか?いや、動かしていない。
横でRさんも同じようにタネがわからなくて身悶えしている。
タネを見破れないオレ達に何度も何度も手品をやってみせてくれるマスター。
オレは持てる限りの古典物理学の知識を総動員したのだがまったくタネがわからない。なぜ五円玉が万有引力の法則に逆らって登っていくのか。五円玉の質量はかわっていないし、熱エネルギーも移動していない。位置エネルギーだけが増大しているのである。これが事実なら永久機関の発明も夢ではない。オレは今、人類のエネルギー問題を解決する糸口を目の当たりにしているのか!?
などとバカなことを悶々と考えていたら、マスターがタネを教えてくれた。
すっごいしょーもない。あまりにしょーもなすぎて、ここに書きたくもない。
殺意が芽生えた。
このときの気持ちを英語で言えば「Kill you!!!!」である。
ここでちょっと小話を披露しよう。
ある場所で著名な学者を集めた催しが開かれた。そこの庭には球形の石があったのだが、不思議なことにその石は日が当たっている部分が冷たく、影になっている部分が暖かかった。それを見つけた学者達は議論を始めた。物理学者は物理学を駆使し、数学者は数学を駆使し、哲学者は哲学を駆使して、その石の現象について原因を究明しようとした。だがこの不可思議な現象を説明できる結論は出なかった。
そこに掃除夫がやってきて言った。
「あぁ、その石はワシがさっきひっくり返したんだ。」