迷子

梅田の串カツ屋で、こんがり揚がった串カツと生ビールを楽しんでいた。もちろんソースは二度づけ禁止である。


店の中がザワザワしだして、みんなが店の外を見ている。どうしたのかと思ったら、赤い服を着た女の子が泣きじゃくりながら、立ち尽くしていた。店のおばちゃんが懸命になだめていた。迷子だった。


みんなが「迷子?」「お母さんはどうしたんやろ?」と口々に言っていた。店の中のざわざわした空気は、それが原因だった。


みんな、ビールを飲みながら、串カツをかじりながら、女の子のことを気にしていた。我慢できなくなった客のおじさんが、店の前で「この子のお母さんはいませんかーっ!」と叫びだした。それでもお母さんは現れなかった。

みんな、「子どもはちょっと目を離すとすぐいなくなるからなぁ」とか「警察に連れて行ってあげた方がいいんちゃううか?」とか迷子が気になって気になって落ち着かないようだった。

しばらくすると、また店の中の空気が急に変わった。さっきまでの落ち着かない感じが消えて、柔らかになった。


振り向いて店の前の見てみると、赤い服を着た女の子はお母さんらしき女性にすがりついて、また泣きじゃくっていた。


迷子の女の子がお母さんと行ってしまうまで、店中がひとつになっていた。


しばらくしたら、元の騒がしい店に戻ってた。